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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)2918号 判決

原告

日貝虎雄

被告

開発重機株式会社

ほか三名

主文

(1)  被告開発重機株式会社、同野口忠男、同平和橋交通株式会社は、各自原告に対し金六八万五、九七七円およびこれに対する昭和四三年一月一七日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(2)  原告の被告開発重機株式会社、同野口忠男、同平和橋交通株式会社に対するその余の請求ならびに被告小林数夫に対する請求を棄却する。

(3)  訴訟費用はこれを五分し、その三を原告の、その余を被告開発重機株式会社、同野口忠男、同平和橋交通株式会社の各負担とする。

(4)  この判決は原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、原告

(一)  被告らは、各自原告に対し金一三三万三、〇〇七円およびこれに対する昭和四三年一月一七日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言。

二、被告ら

請求棄却、訴訟費用は原告の負担とするとの判決。

第二、当事者の主張

一、(請求の原因)

(一)  (事故の発生)

原告は、次の交通事故によつて傷害を受けた。

1 発生時 昭和四三年一月一七日午前三時四〇分頃

2 発生地 東京都港区新橋三の一六の二四

3 加害者

甲車 大型特別貨物自動車(品川八に七三三号)

右運転者 被告野口

乙車 営業用普通乗用車(足立五え四九二八号)

右運転者 被告小林

4 被害者 原告(甲車に同乗中)

5 態様

見通しの悪い交通整理の行なわれていない交差点において、甲車は一時停止の標識があるにも拘らず一時停止をしないで進入し、乙車は徐行しないで進入したため、出合頭に衝突。

6 被害

原告は、本件事故のため頭部外傷、左肩甲骨骨折、左側部胸部打撲等の傷害を受け、その治療のため、前同日から同年三月二九日まで入院、その翌日から同年六月七日まで通院(実日数二九日)の生活を送らねばならなかつた。

(二)  (責任原因)

被告らは、それぞれ次の理由により、本件事故により生じた原告の損害を賠償する責任がある。

1 被告開発重機は甲車を、被告平和橋交通は乙車をそれぞれ所有し、自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による責任。

2 被告野口は一時停止の標識があるのにこれに気づかず一時停止することなく交差点に進入した過失により、被告小林は見通しのきかない交差点に進入するに際しては予め徐行すべき義務があるのにこれを怠つた過失により本件事故を惹起させたものであるから、それぞれ民法七〇九条の責任。

(三)  (損害)

1 治療費等

原告は本件事故で受けた傷害の治療のため、次のとおり、合計金三三万五、三二七円の治療費等の出費を余儀なくされた。

(1) 治療費 計二九万〇、六〇〇円

入院治療費 二五万八、一〇〇円

通院治療費 三万二、五〇〇円

(2) 付添看護婦料

原告は、入院期間中特に安静を医師により命ぜられ付添看護が必要と診断されたため、専門の看護人の付添を必要とし、そのため三万五、八三〇円の出費が必要となつた。

(3) 入院雑費 計八、八九七円

ふとん借代 四、二六〇円

栄養費 一、二八二円

その他の雑費 三、三五五円

(4) 通院交通費 三、六八〇円

2 雇人給料分 計二五万四、〇〇〇円

原告は本件事故による受傷治療のため、昭和四三年六月まで自ら稼働できないため、臨時のバーテンを雇傭せざるを得なくなり、そのために支払つた給料総額は二五万四、〇〇〇円である。

3 休業損害

原告はバー「日貝」を経営しているが、原告が本件事故による受傷治療のため店に出ることのできなかつた昭和四三年一月一七日から同年六月末までの売上減は月約一〇万円であり、その収益損は四四万円となる。

4 慰藉料

原告の治療中、被告らは全く誠意がなく治療費等も支払わなかつたので、原告の被告らに対するいきどおりは激しく、または営業の成績低下に対する苦慮も大きかつたのであるから、本件傷害による精神的損害を慰藉すべき額は金四〇万円が相当である。

5 損害の填補

原告は本件事故により蒙つた損害に関し、既に自賠責保険金三〇万円の給付を受けたので、これを右損害額より控除する。

6 弁護士費用

以上により、原告は一一三万三、〇〇七円を被告らに対し請求し得るものであるところ、被告らはその任意の弁済に応じないので、原告は弁護士たる本件原告訴訟代理人にその取立てを委任し、原告は手数料として一〇万円を支払つたほか、成功報酬として原告は一〇万円を支払う旨約した。

(四)  (結論)

よつて、被告らに対し、原告は金一三〇万三、〇〇七円およびこれに対する事故当日たる昭和四三年一月一七日以降支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の連帯しての支払いを求める。

二、(被告らの事実主張)

(一)  (請求原因に対する答弁)

1 被告開発重機および被告野口

(一)の事実中1ないし5の事実および傷害の事実は認めるが、部位程度は不知。

(二)の事実は認めるが、(三)の事実は不知(ただし、うち5の事実は認める。)。

2 被告平和橋交通および被告小林

(一)の事実中1ないし4の事実5の事実中甲車についての部分および傷害の事実は認めるが、5の事実中乙車についての部分は否認、6の事実は不知。

(二)の事実中、被告平和橋交通が乙車を所有していることは認めるが、責任のある点否認。

(三)の事実不知(ただし、うち5の事実は認める。)。

(二)  (事故態様に関する被告平和橋交通および被告小林の主張)

被告小林は本件交差点に徐行しながら進入したところ、甲車は一時停止の標識があるにも拘らず、これを無視し時速六〇キロメートル以上の速度で進行したため乙車の後部に衝突したもので、本件事故の原因は一方的に甲車にある。

(三)  (被告平和橋交通の抗弁)

右のとおり、被告小林には運転上の過失はなく、本件事故発生はひとえに被告野口の過失によるものであり、また被告平和橋交通も運行供用者としての過失もなく、乙車には構造上の欠陥も機能の障害もなかつたから、被告平和橋交通は自賠法三条但書により免責される。

三、(抗弁事実に対する原告の認否)

抗弁事実中、被告小林および被告平和橋交通が無過失であつた点は否認し、乙車に欠陥がないとの点は不知。

第三、証拠関係〔略〕

理由

一、(事故の発生)

(一)  請求原因(一)の1ないし4の事実および原告が本件事故により傷害を受けたことは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によれば、原告は本件事故により頭部外傷、左肩胛骨骨折、左側胸部打撲の傷害を受け、昭和四三年一月一七日から同年三月二九日まで東京都港区芝西久保明舟町所在の川瀬外科病院に入院して治療を受け、同病院退院後も同年五月一四日までの間五回にわたり同病院で治療を受けさらにその間四万温泉に約二〇日間湯治に行つたりしたこと、しかしなお頭痛がしたり骨折した個所に鈍痛があり、長い間ギブスをしていたため腕も曲らず、腕の感覚もおかしく仕事ができない状態であつたため頭部外傷後遺症検査のため同年五月一五日港区芝浦三丁目所在の東京掖済会病院に入院し、脳波等の検査を受けたが、特に異常なく、胃部の精密検査の結果萎縮性胃炎と診断され、同年六月七日退院したことが認められ、以上の右認定を覆すに足る証拠はない。しかし、右萎縮性胃炎については本件事故と因果関係のあるものとは認め難い。

(二)  本件事故の態様について、原告と被告開発重機および被告野口との間においては争いがない。一方、被告平和橋交通および被告小林は事故態様を争つているところ、〔証拠略〕によれば、甲車と乙車が交差点において衝突したことを認めることができるが、その余の態様については認めることのできる証拠はない。

二、(責任原因)

(一)  原告と被告開発重機および被告野口との間では、請求原因(二)の2の被告野口の過失のあつた事実および被告開発重機が甲車を所有していたことは争いがない。これによると、甲車の運転者である被告野口は、本件事故につき自動車運転手として遵守すべき一時停止義務を怠り、そのため本件事故を惹起しているのであるから、本件事故の結果原告が蒙つたとみられる損害を民法七〇九条によつて賠償しなければならない。また、被告開発重機も運行供用者としての賠償責任を負わなければならない。

(二)  一方、被告平和橋交通が乙車の所有者であることは当事者間に争いがなく、前記の如く、甲、乙車が衝突し、乙車同乗の原告が傷害を受けているところ、本件事故の発生について、自己および運転者被告野口が乙車の運行に関し注意を怠らなかつたことを認めることのできる証拠はないから、その余の主張について判断するまでもなく、被告平和橋交通は運行供用者としての責任を免れないものというほかない。

(三)  しかし、被告小林は本件事故における自己の過失を否認しているところ、同人が本件事故につき過失があつたことを認めることのできる証拠はないから、原告の被告小林に対する請求はその余の判断をするまでもなく理由がないことが明らかである。

(四)  そして、被告開発重機、同野口、同平和橋交通は、その損害賠償責任を不真正連帯の関係において負担することになる。

三、(損害)

(一)  治療関係費用

〔証拠略〕によれば、原告は前記川瀬外科病院の入・通院治療として、金二五万九、二〇〇円の出捐を余儀なくされたこと、原告は昭和四三年一月一七日から同年二月五日までの同付添看護が必要と診断されたため、専門の看護人たる訴外三島ひさ、佐野よし子の付添が必要となり、そのため金三万五、六三〇円の出捐を余儀なくされたこと、原告は川瀬外科に入院期間中、ふとんの借用や日用品、栄養食品等の購入等治療に伴なう諸雑費として、少なくとも八、八九七円を支出していることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。原告は、治療費および付添看護費について右認定以上の支出を要した旨主張するが、これを認めることのできる証拠はない。

また、前記認定の如く、原告は川瀬外科病院を退院後も同病院に五回通院しているが、同病院の位置および原告の住所からすると、その通院のための交通費は少なくとも一回当り四五〇円を下らないものと推認されるから、原告は本件受傷の治療のため少なくとも二、二五〇円の交通費を支出したと認めるのが相当である。原告はそれ以上の支出を要した旨主張するが、これを認めることのできる証拠はない。

(二)  雇人給料支出分

〔証拠略〕によれば、原告は昭和四一年一二月から新橋においてバーを経営し、妻とアルバイトの女の子と三人で店をやつていたが、本件受傷の治療のため川瀬外科へ入院したり湯治に行つたり、又精密検査のため掖済会病院に入院したりしたため、受傷後昭和四三年六月七日までは仕事につけず、その後も同月末までは午後三時ころから午後五時ころまで店の掃除、仕込みをし、帰宅して静養する生活を送つていたため、その間妻の弟訴外加藤佑紀をアルバイトとして雇い入れ、同人に同年五月までに計二〇万六、〇〇〇円を、同年六月分として四万八、〇〇〇円を支払つたこと、したがつて、原告が店に出ていなかつた期間は妻と右加藤で店をやつていたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

しかし、前記の如く、原告の掖済会病院での診断では萎縮性胃炎があつたという事実に照すと、六月に原告が仕事につけなかつたのが右胃炎による部分があることは否定できず(原告本人尋問の結果によると、掖済会病院退院後の投薬を受けたのは胃炎の薬だけであることが認められる。)、諸事情を考慮すると、本件事故と相当因果がある損害は五月分までの全額と六月分の半分計二三万円とみるのが相当である。

(三)  休業損害

〔証拠略〕によれば、原告が仕事に従事できなかつた期間中、臨時に義弟を使用して開店していたものの、売上高が普段に比し減少し、その額は、控え目にみても、昭和四二年一月二万円、二月ないし五月毎月五万円、六月四万円を下らないこと、同店の純利益は売上の三分の一を下まわることはないことが認められ、この認定に反する証拠はない。右事実と前記の原告の治療事実からすると、原告は本件事故による受傷により、少なくとも二四万円の売上が減少し(六月分の半分は本件事故と因果関係ないことは前述のとおり)、したがつて少なくみても八万円の純利益を喪失したものと認められる。

(四)  慰藉料

前記するような原告の本件受傷のための入通院期間、その間の営業収益の減少等の諸事情を斟酌すれば、原告の本件受傷による精神的苦痛に対する慰藉料は金三〇万円をもつて相当と認める。

(五)  損害の填補

以上のとおり、原告の本件事故による損害は合計九一万五、九七七円となるところ、原告が自賠保険金三〇万円を受領し、これを右損害の一部に充当したことは当事者間に争いがないから、その残額は金六一万五、九七七円となる。

(六)  弁護士費用

〔証拠略〕によれば、原告は、被告らが任意の弁済をしないため、本件原告訴訟代理人に対して訴訟提起を委任し、手数料として一〇万円を支払つたほか、成功報酬としてさらに一〇万円の支払いを約したことが認められるが、本件事件の難易、前記請求認容額等本訴に現われた一切の事情を考慮すると、被告らに負担させるべき費用としては七万円とするのが相当である。

四、(結論)

してみると、被告開発重機、同野口、同平和橋交通は、各自、原告に対し本件事故による損害賠償として金六八万五、九七七円およびこれに対する本件事故発生の日である昭和四三年一月一七日以降支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をなすべき義務があることは明らかである。

よつて、原告の本訴請求は、右の限度において理由があるから、これを認容し、被告開発重機、同野口、同平和橋交通に対するその余の請求ならびに被告小林に対する請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 田中康久)

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